契約に不慣れな日本人にとっては、起こってもいないトラブルに備えて話し合うのは苦手だと思います。ましてや、これから永遠の愛を誓い合おうと思っている彼に、万が一のお金や浮気の慰謝料の話をするのは心苦しいという花嫁さんは多いと思うのです。
しかし結婚後の夫婦には、お金に関すること、家事負担に関すること、ご主人の親族との関係、育児に関することなど、たくさんの問題が出てきます。「あー、結婚する前にもっと話し合いをしておくべきだった」とか「○○してくれないなら結婚しないと言えば良かった~」なんて思ってもあとの祭り。
結婚後にしっかり話し合いすればいいのではとも思いますが、結婚後に夫婦間で契約するのはどうやらまずいようなのです。
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結婚後の契約は一方的に取り消しができる
民法754条 では「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」とあります。
そのため結婚前にしっかりと話し合い、結婚生活の決まりごとを作るのが大切なのですが、単なる話し合いだけだと言った言わないの水掛け論になったり「そんなこと言った覚えない」などと言われる可能性もあります。
だからこそ結婚前に話し合い、書面で残すことが大切なのです。
離婚原因の第一位は「性格の不一致」
厚生労働省の平成28年「人口動態統計の年間推計」によると、「婚姻件数は 62 万 1000 組、婚姻率(人口千対)は 5.0 と推計される」 「離婚件数は 21 万 7000 組、離婚率(人口千対)は 1.73 と推計される」となっています。
人口動態統計の年間推計 (厚生労働省HP)
人口1000人当たり5組は婚姻しても、1.73組は離婚していることになり、ざっくり言うと3組に1組が離婚していることになります。
また、離婚する夫婦の9割は裁判ではなく話し合いで離婚を決める協議離婚と言われますが、離婚の原因の第一位は「性格の不一致」なんです。
意外と根深い「性格の不一致」
「性格の不一致」というものは単に「考え方が合わなかった」というものではなく、もっと根深いものです。
例えば、彼のギャンブル依存は幼少期の貧乏体験が原因だったり、共働きなのに彼に育児や家事に協力的でないのは、彼の思想の根底に女性を侮蔑している可能性もあります。
他人の考え方を変えるのがどれほど難しいことか、大人になればなるほど実感します。
一番シビアな「お金」に関すること
最も切実な問題は「お金」に関することです。
例えば結婚前から同棲しているカップルの時のお話になりますが、同棲中の食費は誰が出していましたか?
もし食事を作るのがあなたなら、食材や生活用品の買い出しと支払いはほとんどあなたがしていたのではないでしょうか?
また、同棲中のアパートの家賃はどうしていましたか?また結婚後はどうする予定でしょうか?
それ以外にも、結婚後に車などの大きな財産を購入するときの費用とか、給料からどれくらいを貯金に回すのかなどしっかり話合わないと、あなたばかり家計のやりくりで頭を痛めて、彼は独身時代と同様、自由にお金を使っているなんて不満も出てくるかもしれません。
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ルールに縛られ過ぎるのもNG
「結婚記念日には必ず外食をする」「女性にプライベートなアドレスを教えない」など、婚前契約書の内容は、法律や公序良俗に反しない内容であれば、どんな契約内容でも自由です。
ただし、あまり細かいルールを作ると、ルールに縛られ精神的な負担となったり、ルールを破ったときにまたケンカになったりします。
そもそも婚前契約書の目的は、結婚生活を幸せに送るためのアイテム。細かいルールで縛りつけるのではなくお互いに許容し合うことも大切です。
結婚への一方的な要求を阻止する
結婚したい動機はいろいろあります。単純に愛し合っているカップルもいれば、将来への不安からパートナーが欲しいと思っている場合や、子どもが欲しかったという動機もあるでしょう。もしかすると、親のために結婚をと思っているかもしれません。
どのような動機であれ、経済的にどちらか一方が優位な場合や、どちらか一方が相手を好きすぎたりすると対等ではなくなり、相手の要望を受け入れすぎたり、自分の希望を彼に伝えることなく結婚生活をスタートさせてしまうことがあります。
それほど結婚といえど、お互いのバランスは非常に大事になってきます。
どんな結婚生活をイメージしているか話合うことが大切
相手の一方的な要求を押し付けられてしまうと、初めの数年は我慢できても、長い結婚生活の中で不満が溜まり、将来的に離婚や家庭内別居などの状況になってしまいます。
実際に作成するかは別として、「婚前契約書を交わしませんか?」と提案して、話し合う機会から作ってみましょう。
婚前契約書を交わしておいた方がいいパターン
実は相手をあまり良く知らない場合
長年付き合ったり、同棲までして相手を良く見極めて結婚したつもりでも、いざ結婚してみると、「こんな人だっけ?」と思うことは必ず出てきます。
ましてや、お互いをあまり良く知らないで結婚に至ったカップルならなおさらです。相手を良く知りたいときは、周囲の彼への評価が参考になりますが、婚活サイトや結婚相談所などでの出会いの場合、彼の友達や職場の人とは結婚式で初めて会うなんてケースも。結婚する前に彼の評判や性格について、第三者の意見を取り入れることができません。
結婚前は外食やプレゼントなど羽振りが良かったのに、結婚後はお金にシビアだったということもあるので、交際期間が短いとか実は相手を良く知らないなど不安がある場合は、婚前契約書を交わそうと言えるくらいの関係を築いておくべきでしょう。
結婚前から家計の負担は折半だと宣言されている場合
結婚後も仕事を続ける女性が増えており、家計の負担も折半というカップルも多くいます。家計も折半なら、当然家事・育児も折半でお願いしたいですよね。
しかし、どう考えも育児の負担は女性の方が多くなります。特にこどもが乳児のときは、母親にしかできないことだらけ。
参考:貯金額から家事分担まで「守らなければ離婚!」…「婚前契約書」の書き方 (弁護士ドットコムHP)
子育ての負担があなたに多くなるなら、せめて家事は旦那さんの負担の負担を多くするなど、結婚契約書でお互いの家事負担や育児の負担について、ルールを作っていた方が良いでしょう。
専業主婦でいてほしいと夫から希望されている場合
今や専業主婦は憧れの職業の一つのようですが、専業主婦の生活がすべてバラ色かと言えばそうではありません。
専業主婦の一番の弱点は、【経済的に不利な立場に置かれる】という点。例え夫に充分な収入があっても、あなた自身が贅沢に使えるお金を渡してもらえるとは限りません。
国際結婚のカップルの場合
キリスト教圏の欧米人は、「契約」を重んじる思想が根強くがあります。
また「プリナップ 」と呼ばれる婚前契約書を作るカップルも多く、婚前契約書を交わすことで相手が気を悪くするのではないかという心配もなく、婚前契約書の作成は「当然やるべき」と考える人も多くいるようです。
一方、韓国や中国などのアジア圏においては、婚前契約書には抵抗があるよです。しかし、言葉の通じる日本人同士の結婚でもケンカが起こってしまうのです。ましてや言葉の壁や生活習慣の違う国際結婚の場合、なおさらルールを作っていた方がよいでしょう。
LGBTや事実婚のカップルの場合
LGBTとはセクシャルマイノリティ―(性的少数者)のことです。
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/LGBT (ウィキペディア)
同性のカップルがお互いを人生のパートナーとして忠誠を誓い愛し合うことは、異性のカップルの姿と何ら変わらないのに、日本ではまだ同性カップルの婚姻が認められていないのが現状。
地方自治体では「パートナーシップ登録」を設けて、公的に婚姻関係と認める制度はありますが、法的に婚姻が認められたわけではなく、夫婦としての法的な保護を受けられません。
そこで生活費や扶養義務などについて、より法的な婚姻に近い強い関係に近づけるために、婚前契約書を交わしておく方がよいでしょう。
あまり意味のない契約内容ってある?
「浮気したら慰謝料1000万を支払う」は絵にかいた餅?
婚前契約書の内容は、法律や公序良俗に反していなければ基本的には自由です。ただ実現可能なのかはよく考える必要があります。
例えば、「夫婦の一方が不貞行為により損害を与えた場合には慰謝料として金1000万円支払う」という文言入れたとします。もし夫が浮気した場合、あなたは慰謝料を請求することはできます。
そして夫ががすんなり支払ってくれるなら何も問題はありません。しかし、夫が支払いたくないと拒否した場合、脅しや暴力で支払いを強制することはできません。そして、納得がいかないあなたは裁判によって決着するかもしれません。
裁判で慰謝料が認められても、婚前契約書通りの金額を認めてくれるかはわかりません。日本の場合、浮気の慰謝料は50万から200万ほど。高くても300万くらいです。
離婚も別居せず,夫婦関係を継続する場合 50万円~100万円 浮気が原因で別居に至った場合 100万円~200万円 浮気が原因で離婚に至った場合 200万円~300万円 参考:浮気・不倫の慰謝料の相場は? (アディーレ法律事務所HP)
子どもの親権や監護権は慎重に決める
例えば婚前契約書に「離婚する場合、親権・監護権は母親に帰属とする」という文言を入れたとしましょう。実際調停や裁判でも、子どもが乳幼児だった場合は母親が親権・監護権者となるケースが多いようです。
しかし、子どもが生まれる前から親権や養育権について、婚前契約書で決めることは好ましくありません。子どもの親権や養育権は「子どもの幸せ」を第一に考えるべきであり、両親のどちらが子育てに多く関わっていたか、子どもにいい教育を与えてあげられるのはどちらか、経済的に子どもに豊かな生活環境を与えてあげられるのはどちらかなど、そのときの状況を総合的に判断して決めるべきだからです。
子どもの親権や養育権については、「万一離婚をするときは、子どもの年齢・性別・学校などの生活環境・子育ての協力者の有無などを総合的に判断するとともに、子どもの意思を最大限尊重して決める」というように留めておく方がよいでしょう。
婚前契約書を作る方法
婚前契約書にはどんな内容をかけばいいの?
婚前契約書は、離婚するときのトラブルを避けるために作成されると考えられがちですが、婚前契約書を作る意義は、「結婚生活をスムーズに送るための覚書」の役割の方が大きいと言えます。
どのような決まりを作るかは、どのようなことでトラブルが発生するかを考えるとわかりやすいです。
具体的には
- 「お金に関すること」
- 「家事・育児に関すること」
- 「浮気・不倫関係」
が3大トラブルです。
書式は自由!話し合った内容をまず書きだしてみる
お互いの収入から5万円ずつ生活費を出し合うとか、生活費の全ては夫が出す代わりに、妻の収入は貯蓄にするというやり方もあるでしょう。
また専業主婦になる場合は、生活費をいくらもらえるのか、お小遣いはもらえるのかなども結婚前に話し合いましょう。
実践!婚前契約書を作ってみよう
法律的な契約書を作成したいなら行政書士
「結婚記念日には必ずバラの花束を贈る」とか「一日3回必ず愛しているという」などという文言も全く無駄とは言えないものの、婚前契約書にわざわざ記載する必要があるかどうかは疑問があります。
法律的にも有効な婚前契約書を作成したいなら、婚前契約書や夫婦関係を専門とする行政書士に書類作成を依頼しましょう。
作成費用は安いところで3万円から、高いところでは10万円と幅がありますが、まずは行政書士会主催の無料の業務相談会などで相談してみるのもよいでしょう。
婚前契約書の一般的なひな型
よりよい結婚生活を送るために婚前契約書の普及を目指した「一般社団法人 プレナップ協会 」では、婚前契約書のひな型の一例を公開しています。
契約書作成に参考できる以外にも、「結婚する前に彼に聞いておきたい35の質問」など、結婚以前に彼の人となりを知る上で参考になりそうな情報も載っており、初心者にもわかりやすく見やすいHPとなっていますので是非参考にしてみてください。
婚前契約書は公正証書にした方がいい?
公正証書とは、債権者と債務者が合意した内容を公証人が書面にしたもので、支払いを強制するためには公正証書正本に、「債務者が公正証書正本に記載された債務を履行しない場合は、ただちに強制執行に服する旨(これを執行受諾文言といいます)」が記載されていなければいけません。
しかし、婚前契約書にはこの執行受諾文言を付けることができないので、婚前契約書に浮気の慰謝料の記載をしてても、慰謝料を払えと強制することはできません。
また、強制力を持たないのにわざわざ公正証書にする必要性があるかは疑問ですし、公正証書にするには費用がかかります。
ただ、公正証書にすれば20年は公証役場で保存されますので、婚前契約書の内容が反故にされたり、紛失や破棄されたりしたときのために、公正証書にする意義はあると思います。
【結婚前に決める婚前契約書】のまとめ
実は「契約」は文書を交わさなくても、口約束でも成立します。おそらく結婚の先輩たちも、結婚の前にいろいろ結婚のことを話し合ったはず。でも、文書にしてなかったから証拠がなくて守られてないのでしょう。
以前は、法的にペナルティーがなく強制力もない婚前契約書を作るメリットはあまりないと思われてきました。しかし、周りの様々な既婚者を反面教師として、どうしたら幸せで安定した結婚生活を送れるかということを考える人が増えてきました。
婚前契約を交わすことによって結婚生活の安定が図られて、夫が家事にも育児にも協力的になるのなら、婚前契約書を作成する意義は非常に大きいものと言えるでしょう。